3年ぶりに観劇した記録


やっほー!オタクです!気づいたら令和も4年目で、迫りくる現実から目を背けられず、ひとまずマッチングアプリに登録だけしてみたアラサーです。
ご縁あって俳優座劇場にて上演されている「遠ざかるネバーランド」という作品を観劇させていただきました。ストーリーに触れようとすると全てネタバレになってしまうタイプのアレなので、端的に言うと全てネタバレです(やめな)しかしオタクたるもの、享受したものはアウトプットしたいのが性なので、自分用の気持ちも込めて記録に残します。

 

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ネバーランドに行って空を飛びたい」
自由に空を飛んでみたい、
永遠に子供のままでいられるネバーランドに行ってみたい。
誰もが一度は抱いたことがあるだろうこのファンタジーな夢を、なるほどこういう捉え方ができるのだと、ただ呆然としてしまった。観劇から一夜明けて、台詞をひとつひとつ思い返してようやくグっとこみ上げるものを感じてる。


主人公は、17歳の高校生・上田いずみ。
ピーターパンの世界が大好きで、ずっと空を飛びたいと思っていた。
いずみが空に向かって手を広げると、そこはいつのまにかネバーランドになっていた。

 

 

元気で明るくてワンパクででも少しだけ臆病者の男の子・ルフィオ。
シンデレラが大好きでいつか王子様に迎えに来てもらいたい女の子・エコー。
ピーターの全部が大好き!ピーターも僕のことが好きなんだよ!無邪気で愛らしい・トゥートルズ。
3人に出会い、ネバーランドに迷い込んだいずみは、自らを「ウェンディ」と名乗る。

 

ウェンディはピーターパンに出会い、「わたし、空を飛びたいの!」と申し出る。
ネバーランドで唯一、ピーターパンだけが空の飛び方を知っているから。


ネバーランドの住人はみんな、空を飛びたいと願っている。
人魚だけど空を飛びたい、泳ぐのがちょっとヘタクソな人魚・ビスカ。
絵をかくのが好きな村の酋長の娘・タイガーリリー。

 

「なんで空が飛びたいの?」

「なんでって、ネバーランドに空が飛びたくない人なんていないよ」


そんな住人たちと対立するキャプテンフック。
その手下の海賊たち、フォガーテ・ドンキー・スターキー。
ピーターたちと対立し、ピーターパンを倒すことが彼らの目的。


そして、そこのやってくる一人の少年。
少年は妖精ティンカーベルに依頼され、空を飛ぶことを止めさせるためにそこにいた。
それは、ネバーランドとは何の関係もない少年だからできること。

 


空を飛ぶためには?
翼はいらない。好きなことを一つイメージして。そしたら体がふわっと、宙に浮く。
ルフィオはハンバーグ!エコーはシンデレラ!トゥートルズはピーターパン!
それぞれに空が飛びたいと願う。
「空を飛んだら、特別になれるから」

 

少年は問う。
「なんで空が飛びたいの?」「本当に飛べると思ってるの?」

「何ハンバーグ?」
「和風とかさ、いろいろあるじゃん!」
「王子様が迎えに来てくれるなんて本当に思ってんの?」
「ピーターパンのどこが好きなの?全部?具体的には?」

「私の名前はタイガーリリー!誇り高き村の酋長の娘!」
「村があるの?父親ってどんな人?」
「どんな人……?」

「海賊はなんで空を飛びたくないの?」
「なんでって…なんとなく」
「…空を飛ぶ海賊なんか…かっこ悪いじゃん」


住人たちは閉口し、次第に笑顔が消えていく。
ピーターパンはウェンディたちに「こいつのことは見えないし聞こえないことにしよう!」と少年を徹底的に無視するよう提案。


空を飛ぶためにもう一つ、妖精の粉が必要なことを忘れてた。
妖精は妖精の丘にいる。ウェンディたちは妖精の粉を求めて冒険にでる。

 

道中も度々少年は登場し、住人たちに執拗に問う。少年が問うごとに、住人たちは自問自答し、「本当の」記憶を取り戻し、「空を飛びたい」と願う気持ちが揺らいでいく。


「私の名前はタイガーリリー!誇り高き村の酋長の娘!」
「本当の名前は?」
「…だから…タイガーリリー!」
「そうじゃなくて!」
「…見えない!!!聞こえない!!!」


冒険の道中、ピーターたちは洞窟でトゥートルズと逸れてしまう。
ピーターとルフィオはフック船長に捕らわれたであろうトゥートルズを助けに、ウェンディとエコーは狩人の村でピーター達を待つことに。


ルフィオはピーターに、エコーはウェンディにそれぞれ不安を吐露する。
「ちょっとだけ!!…不安。ちょっとっていっても!!こーんなちょっとだよ?」
「みんなで空、飛びたいんだろ?」
「飛び………」

 

「ねえウェンディ?編み物のやり方とか知らない?」
「どうしたの急に?」
「あの人(少年)が、飛ぶより前にできることがあったんじゃないって……」
「はあ?」


ピーターパンは住人から「空を飛びたい」という願いが消えた瞬間静かに住人たちを殺める。ルフィオもエコーも、船に捕らえられていたトゥートルズも。


本当はピーターパンも空の飛び方を知らない。
だってピーターもまだ、「飛んだことがない」から。

 

ピーターパンはフック船長の船に乗りこみ、ついに船長と対峙する。
フック船長の手首を切った時のこと。
ピーターパンは本当に空を飛ぶのか。


フック船長は倒れる直前ピーターパンにこう告げる。
「子供の時間はもう終わりだ。これからは長く苦しい大人の時間が待っている。
 ………それでも死ぬほどのことじゃない」


舞台中盤から薄々気づき始めていた「空を飛ぶ」ということの意味がここでついにつながる。
そらをとぶこと 飛び降りるということ
永遠に子供のままでいられるということ


ネバーランドは、自殺を望んだ上田いずみの心の中の世界で、住人は全員、上田いずみ。父親がいない、母が病気で入院している、泳ぐのが苦手、友達と仲違いをしていずみの心の中を、住人がそれぞれに入れ替わり立ち代わり演じていく。

 

本当の記憶を取り戻した、人魚のビスカ。
人魚なのに泳ぐのはちょっと苦手。
スイミングスクールで50m泳げて、ぐるっと回るターンもできたよ!って嬉々と母に報告したら、母は喜んで記録会を見に来てくれた、記録会の日、母の目の前で、スタートダッシュを切った瞬間、足がついた。本当は25mも泳げない。お母さんを喜ばせたかったから。

 

本当の記憶を取り戻した、狩人のタイガーリリー。
狩人の村には、タイガーリリーただ一人。酋長の父親もいない。文化祭に向けて、親友と半分ずつ絵をかいて完成させようとしてたのに、締め切りに間に合わないからと親友は絵を勝手に完成させてしまった。

 

小さなゆがみが17歳のいずみの心を簡単に蝕んだ。


お母さんのハンバーグがだいすきだった。
お母さんだけはいずみのことを好きでいてくれた。
特別な女の子になりたかった。

 

「いずみ、泣きたい時には泣いていい。いずみが辛くなった時には、お母さんが一番に助けに行くから」
「お母さんが、遠くに行っちゃったら…?」


お母さんは、いずみに見られないように死んだ。
どうせ死ぬなら目の前で死んでほしかった。

 

嘘なんかつかなきゃよかった、もっと甘えてわがままを言えばよかった。

 

ネバーランドにウェンディとピーターパン、少年だけが残る。
憔悴したピーターパンが最後の最後で「飛ぶ」ことを恐れた瞬間、ウェンディは静かにピーターパンの息の根を止めた。


最後まで「飛ぶ」ことに憑りつかれたウェンディが足をかけた時、少年は止める。


「あなたには関係ない!!あなたに何がわかるの!!!」
「俺はお前じゃないから、お前の痛みはわからない!!それでも大丈夫、大丈夫になるから」

 

「なんか話して。そしたらそれを聞いて、俺もなんか言うから」

 

少年はいずみに手差し伸べ、いずみもゆっくりと手を握り返す。

 

 

 


ハンバーグが大好きなルフィオも、特別にな女の子になりたいエコーも、ピーターのことが大好きなトゥートルズも、
泳ぐのが苦手なビスカも、絵が好きなタイガーリリーも、なんとなく飛びたいし飛びたくない海賊の手下も、
ピーターに手首を落とされたフック船長も、全員、17歳の高校生・上田いずみ。

 

前半はみんながよく知るファンタジーのピーターパンの世界をそのままに、だんだんと暗雲が立ち込めていく。

 

なんで飛びたいの? なんでって言われても。
なんで飛びたくないの? なんでって…なんとなく。

 

いずみが「飛ぶ」ことを決意するまでに受けてきた傷や痛み、ゆがみ、迷い、寂しさ、苦しさがそれぞれの住人によって描写され、少年はいずみが「飛ぶ」のをやめるよう何度も何度も問いかける。

 

「なんで飛びたいの?」
「本当に飛べると思ってるの?」
「飛ぶより先にもっとやれることがあっただろう」

 

あなたの痛みであってそれは私にはわからない
お前の痛みはわからないけど、なんか話して。俺もなんか言うから。


辛くて苦しくて何も聞こえない何も聞きたくなくなっても、それでも、死ぬほどのことじゃない。翼なんかなくても、明日になったら戦えるかもしれないし、小さな奇跡はいくつだって起こるんだよ。

 

 

 

私がもう10歳若い時にこの作品に出会っていたら、まだ感じることも背中を押される部分も全然違っただろうなと思う。
最近読んだ森絵都先生の『カラフル』を読んだ時の感覚に少し似てる。

 

「大丈夫になる」という少年の励ましは、とても無責任にも思えるし、第三者である少年からの「大丈夫」だからこそ救われた部分があったのかな。
主人公が17歳だからこそ、受ける痛み一つ一つの大きさと、逆にたった一言ですっと心を掬われるんだなあ。
ウェンディがピーターの息の根を止める直前、あんなにかわいらしかったウェンディが、ピーターと同じ狂気の顔をしていることに気づいたときにはぞっとした。


「見えない、聞こえない、聞きたくない」
「ピーターだけが僕のことを好きでいてくれる」
「フック船長の手首を落とした時、排水溝に流れ出る赤」
「空を飛ぶ」「遠くに行きたい」「永遠に子供のままでいられるネバーランド

 

物語の中にキーワードはいくつもちりばめられていて、物語の終盤ですべての点と点がつながった時には涙が出てしまったし、もう一度観劇して取りこぼした台詞たちを一つ一つ拾い上げたいなという気持ち。

 

初見の俳優さんばかりでどきどきわくわく!
主演の德岡明ちゃん、舞台中はきれいで可愛いお姉さんウェンディなのに、カーテンコール出てきた瞬間めっちゃ可愛い女の子で、投げチューファンサもらって可愛すぎて卒倒するかと思っちゃった。溌剌とした若々しい(若い子に若々しいというのは違うか)お声なのに、ひとたび歌いだすとめちゃめちゃきれいなソプラノで本当聞きほれちゃったな。


そして人生初俳優座劇場!
舞台を観劇したの自体もしかしたら19年の少年たち以来かもしれなくて、禍の事態の重さをしみじみと感じつつ。

定時に仕事を終わらせて猛ダッシュ六本木駅に降り立ち、大戸屋で詰め込みディナーを済ませ走って劇場にログインしたものでしみじみと浸る時間もなかったのは惜しいけれども。
なによりも大江戸線六本木駅の出口目の前というアクセスの良さ。観劇後そのあたりで一杯やってから帰れそうなところもポイント高~~
(今回は翌日に仕事を控え終わった瞬間そそくさと帰宅したけれども…)

 

あれこれ脳みそ張り巡らせて全身全霊で物語を受け止めに行きたくなる、舞台ってやっぱり楽しくて面白くて大好きだな~と思っちゃった。3年ぶりの観劇、座席に座った瞬間からその世界感にぐっときちゃたのはここだけの話。おわり。